伝伝即飽

私の中で話題に!(紹介7割/まとめ1割/他1割)

【小話】繰り返し

趣味で書いてる小説。新作。
  
 
 ――ーなんだ、君。そんなことにも、気がつかなかったのかい。
 
 あぁ、そうさ。僕は所詮、その程度の人間だった。自虐的な返答に、彼の目は細められる。僕は、心底からその顔が、昔から、嫌いだった。
 
 寒い日が続く。テレビでは、寒波が到来すると騒いでいて、外へ出掛ける際は厚着を推奨していた。だが、地下鉄に乗れば人の多さのせいか、車内の空調が悪いせいか、暑く感じられるから、僕はいつもと変わらない、秋口と同じ格好に、厚手のコートを羽織って家を出た。
 いつも遅刻なんてしないけれど、今日は特に、遅れられない理由がある。恋人のマキに、渡さないといけないものがあったから。自然、早くなる足取り。焦りがあったんだ。そういうものは、必ず災いを引き起こすのに。
 
 ――ほら。慌てると、危ないよ。
 
 幼い頃にも聞いた声だった。誰に言われたのかは分からない。覚えがない。でも確かに、そのように言われた。
 次いで、痛みが襲う。どこが、とは具体的には分からない。痛みの後に意識するのは、何やら「うるさい」ということ。なにをそんなに、騒いでいるんだ。そして、気がつく。僕はどうして『空を見ている?』。
 
 状況が分からない。ただ分かるのは、見ず知らずの人が周囲にいること。何を言っているのかは聞き取れない。とても焦った顔で、僕を見下ろしている。動けない僕の肩に触れたり、口をぱくぱくと動かしているだけ。かろうじて、頭を動かせたので意図せず自分の足下へ視線を動かした。呼吸が詰まった。
 
 ――言わんこっちゃない。全く、何度目だ。覚えてなんて、いないんだろうけど。
 
 さっきから、はっきりと聞こえてくる声の主は、けれど周囲のどこにも居なさそうだった。千切れた左足はどこに行ったんだろう。お腹の血だまりの具合から、きっと『中身』も出てしまっているかもしれない。見えないが、もしかしたら首から上も、凹んでいたりえぐれていたり、していないだろうか。ということは、僕は、もうすぐ死ぬのか。
 『死』を意識したときに、はじめに浮かぶのが、マキのことだった。結局『また』渡せなかった。いや。なぜ、『また』だなんて思っているんだろう。これを渡そうと決意してから、本当に渡すために行動したのは、『今日がはじめて』なのに。
 
 しばし、考える。でももう、だめだった。何を考えても、考えようとしても、何もできない。浮かばない。眠たいのだ。眠たくて仕方が無い。強烈な眠気には、抗えない。
 
 ――やっぱり。だめだったね。でも大丈夫。無制限だから、あと何度だって『死ねるよ』。
 
 寒い日は、まだまだ、続きそうだ。
 
8Feb2020
 

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